5月2日(月)


夜中に雨がテントを叩いたが、幸いな事に夜明けとともに雨は上がってくれた。
それどころか青空が広がり始めている。
必ず雨を呼ぶ男であるはずの俺の神通力は失せたのか?
そんなものは、初めから欲しくもなかったので、これを機会にすっぱりと晴れ男へと転向宣言したいくらいだ。

朝食を済ませ、撤収の必要も無い朝は、さすがののんびり屋でも8時には出発していた。
今日はテントに荷物を置いていくので、最低限必要な荷物をリアバッグに入れてシートの上はすっきり。
停車時にいつでもシートを上げてトランクを見れるので、走行中にデジカメと携帯の予備バッテリーを
すべて充電する事にしよう。


大沼から鹿部まで駒ケ岳の麓を通る道道「大沼公園鹿部線」を走り、国道278号に出る。
ここからは海岸線を走る事になるが、「旅風ツーリングガイド」では、この区間を「北海道で一番つまらない道」
と書いていたのでどんなものかと思ったが、どうしてどうして小さな漁村の間を縫って走る道は
生活感があって、つまらないどころか、なかなか面白い。
ハイスピードで駆け抜けるライダーにとってはつまらない道でも、私のようなのんびりライダーにとっては楽しめる。

途中で「三味線滝」や「古部の大滝」というマイナーな観光ポイントをチェックしながら、少しづつ近付いてくる
恵山岬を目指す。
道道「大沼公園鹿部線」
晴れ渡った空に駒ケ岳が美しい
相棒も身軽だ

三味線滝
流れ落ちる水音が三味線の音色に聞こえるという由来
がある・・・が全然そうは聞こえなかった。
こじんまりとした滝ですが、道路わきにあるので簡単に
見られる。
古部の大滝
直接海に注ぎ込む豪快な滝だが、特に案内板も無く
非常にわかりにくい。
近くまでは磯場を歩いていかなくてはならないので
遠くから望遠撮影で済ませてしまった。

国道から恵山岬に向かう道に入ると、道はますます狭くなり岬近しを感じさせる。
恵山岬は亀田半島の先端になるが、岬の先端は断崖絶壁で残念ながら道が通じていない。
岬手前の灯台のある公園で岬先端の写真を撮って、再びいま来た道を引き返す。
たかだか5、6キロの道なので時間的には知れているが、同じ道を引き返すのはどうもロスした気分になる。
まあ岬への道には付き物ではあるので仕方がないが。

国道への分岐点に戻ると、道端にポニーがつながれていた。
おとなしく道端の草を食んでいる。
さすが北海道はペットのスケールも違う。
あまりに可愛いのでバイクを停めて写真をパチリ、って携帯のカメラだからそんな音はしないけど・・・

恵山岬灯台から岬先端を望む

灯台はGWといっても訪れる人もまばら

この断崖絶壁では船で無い限り
先端に行くのは不可能

道端でのんびりと草を食べるポニー

恵山岬の反対側は、再び国道から別れて行き止まりの道となる。
そしてこれから、この旅のハイライトの一つ、恵山登山が待っている。
普通なら登山口まで行って、山の姿を眺めて帰って来るのが関の山なのだが、例の「旅風ツーリングガイド」で
360度の大パノラマが堪能でき、是非登って欲しいと書いてあったので、その気になってしまったのだ。

斜度14%という自転車では絶対に登りたくない急坂を登り、登山道入り口のある駐車場に到着。
不気味な山が全容をあらわにし、山腹からは真っ白な噴煙がもくもくと立ち昇っている。
登山中にいきなり噴火したりしないだろうな?と一抹の不安を感じながら、いよいよにわか登山家が片道一時間の
ミニ登山に挑戦。

登山道はそれなりに整備され、それほど急なところも無いのだが、普段山歩きなどした事が無い男には
じわじわとエネルギーが奪われていく。
何より不注意な事に、水分を何も用意してこなかった。
途中にわずかに残る雪の固まりを見て、思わず口の中に入れてみたが、流石にホコリっぽくて吐き出してしまった。

途中で何度も引き返そうという誘惑に駆られながらも、それでは絶対にあとで後悔する事は明らかなので
こまめに休憩を入れながら、なんとか1時間ほどで登り切った。

山頂からは津軽海峡を挟んだ下北半島や、これから訪れる函館の町並み、そしてこれまで通ってきた
噴火湾が一望でき、まさに何も遮るもののない大パノラマが楽しめた。
惜しむらくは、大気の透明度が低く霞がかかったような状態で、すっきりとした眺望に恵まれなかったことは
残念であったが、それでも汗をかき、息を切らせて登り切ったご褒美としては十分なものであった。

下りは人が変わったように元気になり、すれ違う登山客に挨拶を交わしながら、風向きが変わって襲ってきた
硫黄ガスをタオルのマスクで防ぎながら、登りの半分ほどで麓の駐車場に辿り着いた。
駐車場に付くと真っ先に水道に向かい、がぶがぶと水を飲んだのは言うまでもない。


駐車場から見た恵山の全容
これからあの山頂に挑みます

登山道に入ると荒涼とした風景続く

振り返って見える海の青さに元気をもらう

噴煙を上げる火口を迂回して山頂へ

今にも崩れ落ちそうな岩があちこちにある

山頂までもう一息

ついに山頂到着
函館市街が遠くに見える

恵山岬灯台が遥か下に
ずいぶん登ったものだ

下りは風向きが変わり登山道に
噴煙が流れてきた
硫黄の臭いが強く漂いタオルを
口に当てて通り抜ける

すれ違う登山客
意外と登ってくる人が多くびっくりした


汗をかく事は予想してライダージャケットは脱いでいったのだが、それでもTシャツは汗でぐっしょり。
このままでは風邪を引くこと間違いないので、近くにある石田温泉「浜の湯」で汗を流す事にした。
温泉の入り口がわかりにくいと聞いていたが、道路上に大きな標識があるのですぐに判った。

ここは無料混浴の天然温泉で、ツーリング雑誌なのでも良く紹介される、ライダーなら一度は訪れたい秘湯のひとつ。
海岸の堤防に隠れるようにある階段を下って温泉に入ると先客は誰もいなかった。
混浴といっても水着、タオル着用は禁止という、まさに正しい混浴の王道を行く温泉なのだ。
うら若き旅の乙女が入浴中であったら如何がいたそう・・・などと嬉しい心配をしていたが、まったくの杞憂に終わった。

浴槽から何の仕切りも無い脱衣所でさっさと汗に濡れた服を脱ぎ捨てて、湯があふれる湯船に体を沈める。
ちょっと熱めの湯がじつに気持ち良い。
露天風呂に簡単に小屋掛けした作りで、窓の外はすぐ海が広がり波の音が心地よい。
一気に登山の疲れが癒される気分だ。

結局入浴中に入ってくる人は無く、せっかくだからと裸で写真を撮ったりもしてみた(公開はしないけどね)
さっぱりして温泉を出ると、すぐ前の小屋では昆布を干している。
このあたりの昆布は北海道でも品質の良さで知られているらしい。

        
浜の湯は貸切
すぐ外は海
昆布

時計を見るともう14時近い。
けっこうな運動をした後だけにさすがに腹が減ってきた。
すぐ近くの道の駅「なとわえさん」で休憩がてら昼食を摂る事にした。

道の駅併設のレストランで注文したのは「タラの三平汁定食」1100円。
いかにも北海道らしいメニューだし、ホッケのフライが付いているのが魅力的。
ホッケなんて干物でしか食べた事がないが、学名ウサギアイナメ、アイナメの仲間ならフライが美味くないはずはない。

しばらくして出てきた三平汁は実にあっさりとした味付け。
自分で好みで醤油を加えて味付けするものかも知れないが、あえてそのまま食べてみた。
淡白なタラに、上品な澄まし汁。
しかし魚、野菜の味はしっかりと伝わってくる。
ホッケのフライは期待通りの味で、ふっくらとした白身がタルタルソースとマッチして実に美味しい。

腹も満たされ客の姿もまばらなレストランの席で、のんびりと恵山や温泉、そして食べたばかりの昼食の写真などを
携帯でブログに発信した。
毎日携帯からブログを更新する事ができても、肝心の本人がそのブログを見れないのがもどかしいところ。
仮にコメントなどをもらっても返事を返せない。
まあ限られた人しか見ていないだろうから、いらぬ心配かもしれないが、やはりノートPCは欲しいところだ。

これからの函館攻略作戦を「旅風ツーリングガイド」と「ツーリングマップル」を交互に見比べながら検討する。
メインは函館山の夜景、そこまでに見る事ができるポイントを整理して、まずはトラピスチヌ修道院を訪ね、
函館の街に入り五稜郭、そして倉庫街から元町を散策して古い建物を見学しながら夜になるのを待とう。
タラの三平汁定食
完璧なプランを頭に叩き込み、何度呼んでも名前を覚えきれない修道院へと向かう。
修道院への道は実に簡単に分かったが、修道院の前は厳格な修行の場とは似つかわしくない、観光化された
俗っぽさに溢れていた。

大型バスからガイドに引き連れられた大勢の団体客がゾロゾロと隊列を組んで修道院へなだれ込む。
辟易しながらも、形は違えども「自分も観光客には違いない、他人を文句言える立場でもないぞ」と無理に納得
させて、団体客の後を付いていく。

建物の中に入れるわけではなく、あちこちに建つマリア像やキリスト像の由来も良く分からないまま建物を眺めたが
さすがに多くの観光客が訪れるだけあって、その建物は気品に満ちて美しかった。
とりあえず一度は見ておいて損はないだろう。

そこから市街へと向かう道は北海道で初めての渋滞を味わう事になったが、広い路側帯に助けられ適当に
すり抜けながら走る。
函館も路面電車が走っている。
京都・高知・松山・広島・長崎・鹿児島、今まで訪れた街でも路面電車の走る街は歴史があり雰囲気の良い街が多い。
それらの街と共通した匂いを感じながら五稜郭に辿り着いた。

  

五稜郭は先ほどに輪をかけた観光客プラス地元の花見客で溢れかえっており、エレベーターも順番待ちで混雑する
五稜郭タワーの上から周囲を眺めただけで、早々に退散した。
ちなみに五稜郭タワーの入場券はクレジットカードで購入すると団体割引と同じになるので、これから行く人は
覚えておくと得すると思う。

函館駅の近くにバイクを停めて、ここからは徒歩で函館の街を味わおうと思う。
まあこれも「旅風ツーリングガイド」の受け売りなのだが、歩きでなければ味わえない雰囲気というものはあるものだ。

倉庫街には何の感慨も感じなかったが(あまりにも商業化されていて)、函館山の麓に続く元町はさすがに風情があった。
坂と歴史ある洋館、そして街を走る路面電車は長崎の町と共通した雰囲気を感じ、一人で歩くにはもったいない感じ。
そのとおり周囲はカップルばかり。
一抹の寂しさを感じながらも、夕暮れ迫る中、美しい建築を訪ね歩く。

1時間以上坂道を歩きまわり、昼間の登山もプラスして流石に足が棒になってきた。
一度バイクまで戻り、ロープウェイの駅の近くにバイクを停めてぶらぶらと駅に向かった。
五稜郭の桜は開花したばかり
花見客の場所取りブルーシートがいっぱいで
風情が無くがっかり
五稜郭タワーの隣には星型の新タワーが建設中

ロープウェイの駅もすごい人込みだ。
建物の外まで順番待ちの列が溢れ出している。
これは落ち着いた雰囲気で夜景を見る事などできそうにないなあ。
まあ夜景そのものが変わるわけではない。
とにかく世界三大夜景に数えられる函館の夜景を見てやろうではないか。

通勤ラッシュ並みに詰め込まれたロープウェイはあっという間に山頂に到着。
山頂の展望台も人が鈴なりになっている。
寒いけれどガラス越しよりは直接の方がきれいだろうと、展望台の建物の外に出てみた。

なるほど、さすがに世界に誇る夜景というだけはある。
両側を海に挟まれた函館の街の明かりが、真っ暗な海をバックに色とりどりの宝石をばらまいたように光っている。
都心の夜景も光の量では引けを取らないだろうが、やはり函館の夜空の暗さが輝きを際立たせているのだろう。

持参した三脚が短くて、手すりの上に引っかけて撮るしかなかったので、写真では表現しきれないが、やはりここは
夜来てこそ価値があるだろう。
ロープウェイを昇る時に入れ替えに降りてくる人達は何故もう少し待たなかったのだろう?
バスツアーで時間に縛られ、夜景目前の時間に案内される人は実にもったいない。
 


お目当ての夜景も堪能し、暗くなった道を大沼のキャンプ場へと戻った。
途中のスーパー「コープさっぽろ桔梗店」で1480円が半額になった握り寿司セットを見つけ、デザートの苺やビールと
一緒に購入。
今夜は調理もせずにビール片手に寿司をつまんで夕食を済まし、早々に寝袋に潜り込んだ。


本日の走行距離 176km


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