2泊3日の房総自転車ツーリング
若い頃はスリムな体型を誇っていた私も,座ってばかりの仕事のせいか,はたまた不健全な生活の報いか 毎年確実に体重が増え続け、30代半ばにはかなりヤバイ状況になってきた。 そんな時、自宅近くにフィットネスジムがOPENし、OPEN記念の入会金ゼロに引かれ入る事にした。 入会時の体力テストの評価は5段階で1(最低)。 さすがにまずいと思い定期的に通い始め、徐々にその成果が出始めると、トレーニングが面白くなってきた。 ジムのバイクは当然の事ながら、いくら漕いでも進まない。 どうせなら本物を買って通勤にも使ったほうが、持久力も付くし交通費も浮く。 一石二鳥じゃないか! と言う事で、そのころ流行り始めていたマウンテンバイクを近所のジャスコで購入した。 何事にも熱くなりやすい性格のため、すぐに自転車に夢中になり、休日には近場をあちこち自転車で 走りまわっていた。 トレーニングの成果が現れて、ジムでの体力テストも最低ランクだったものが最高ランクまで上昇し、 自分の体が変わっていくのが、我ながら楽しかった。 そして一つのチャレンジとして、自宅(江戸川区)から南房総の白浜までのツーリングを計画した。 宿泊は会社が法人会員の紀州鉄道オーナーズビラの施設が白浜にあるので、そこを利用。 2泊3日の行程で、一日は現地でのんびりするつもりだ。 一日目 早朝に自宅を出発。 湾岸道路を浦安・船橋・幕張と順調に進む。 幕張の人工海浜やマリンスタジアムを右に見て快調なペース。 千葉市内で16号に入り、しばらくは工業地帯の殺風景な道を走る。 木更津に入ると、道は徐々にアップダウンが増えてくる。 クルマやバイクで走った時は気にもしなかったちょっとした坂も、自転車ではかなり応える。 富津から竹岡までが第一の関門だった。 長短の坂が何度も繰り返す。 だらだらとした坂を上がり切り、竹岡で目の前に東京湾が大きく広がる。 初めて房総半島を走っている事を実感できる。 しかしこの日は強い南風が吹き荒れ、海岸沿いの道は強風がもろに向かい風となる。 風の抵抗がこんなにも強いものだとは、町中を走っている時にはわからなかった事だ。 ペダルを漕いでも漕いでも、感覚の半分ぐらいしか進まない。 しかも道は狭く、すぐ脇を大型ダンプがひっきりなしに通りすぎる。 路肩の路面状況は小砂利が浮き、走りにくい事この上ない。 疲労ばかりが蓄積していく。 金谷に着いた時は、すでに午後3時を回っていた。 三浦半島が間近に迫り、久里浜の火力発電所の煙突が見える。 金谷港と久里浜港を結ぶ東京湾フェリーが、狭い浦賀水道を横切っていく。 のどかな風景でバイクやクルマで来てれば、ゆっくりと景色を眺めるところだ。 今日の足は自転車だ。 目的地の白浜まではまだかなりある。 しかし、すでにかなり疲れている。 もう走っている事が楽しくなくなってきた。 頭の中では途中から ”電車に乗って輪行したい” ”タクシーに自転車を乗せて宿に行きたい” そんな、楽するな事ばかりが浮かんでいた。 しかし今回の旅に輪行袋は持ってきていない。 自転車が積めるようなワゴンタクシーも、この辺には無いだろう。 くじけそうな気持ちをだましだまし、館山まで着いた時には夕暮れが迫っていた。 あと一山越えれば館山市街というところで体の力が尽きてきた。 いわゆるハンガーノック状態だ。 非常食用に持っていたチョコレートをかじり、水を飲んで一休みする。 頭上を自衛隊のジェット機が何機も轟音を上げて飛び去っていくのを、ぼーっと見上げる。 しばらくすると嘘のように元気が戻ってきた。 あの時ほど食べ物がエネルギー源であることを直接感じた事はなかった。 館山駅前のマクドナルドで腹ごしらえをして、小休止をする。 駅周辺でタクシー会社を調べたりしたが、やはり自転車を積めるタクシーは無いようだ。 白浜までの最短距離は再びちょっとした山越えになるが、ここまで来たら行くしかない。 覚悟を決めると、宿に連絡して到着が遅れる事を告げ、最後の上り坂に向かった。 真っ暗な山道を、頼りない自転車の明かりがぼんやりと照らす。 やっと峠を越え、とうとう下り坂になった。 白浜まで、あとは一気! 20時近くにやっとホテルに到着した。 自宅を出てから140km。 思った以上にきつい道のりだった それだけに、到着した時は途中であきらめなくて良かったとしみじみ思った。 自分で自分を誉めてあげたい。 誰も誉めてはくれないだろうが、いい知れない満足感が込み上げてくる。 風呂に入って乗った体重計は、2kg減を示していた。 2日目は白浜滞在 房総半島は釣りで百回以上訪れているが、せっかくのマウンテンバイクなので 普段行った事の無かった山の方に行ってみた。 畑の間を抜けて、徐々に上がっていくと白浜ダムに到着。 灌漑用のダムなのでそんなに大きくはないが、ちょっと上がっただけで結構山奥に来た 雰囲気はする。 人影は見当たらず、只静かに水をたたえた湖(池と言ったほうがしっくりくるが)の湖面に 木々が影を落としている。 そこから奥は林道のような細いダート道。 そうそう、こういう道を走りたかったんだ。 軽自動車がやっと通れるくらいの道を喜んで走っていたら、いきなり背負っているザックの ベルトが切れた。 肩口の縫製が雑で、糸がほつれて外れてしまったのだ。 ザックが無いと非常に困るので、町に戻ってかばん屋を探し、新しいザックを急遽購入した。 午後は野島崎まで行って灯台に登ってみた。 クルマやバイクだと通り過ぎてしまうところでも、自転車だと寄ってみたくなる。 そんな場所を発見するのも自転車旅の良さだろう。 |
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当時の愛車 パナソニックのマウンテンキャット号。 残念ながら、後日自宅駐輪場で盗難に遭ってしまった。 |
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白浜ダム 上水道用のダムで、まったく観光化はされていない。 白浜は幾度となく来ていたが、こんなダムがあることは 全然知らなかった。 |
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房総の緩やかな山中の各所に畑が広がっている。 |
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白浜海岸と野島崎灯台。 周囲は絶好の磯釣り場で磯渡しの渡船業者も多い。 |
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崖観音(船形山 大福寺) 館山市の北方、船形山の山腹の断がい絶壁に |
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朱塗りの観音堂からは、館山市街と東京湾が一望できる。 |
3日目 3日間を通じて天気には恵まれた。 帰路は海岸沿いのフラワーラインを走り、館山を過ぎた所で前から気になっていた崖観音に登ってみた。 きつい階段を上り詰めた崖の上からの眺望は素晴らしく、一昨日とは打って変わった穏やかな風に 心も安らぐ一時だ。 館山からは行きと同じコースを木更津まで戻った。 そして木更津からフェリーで川崎まで渡り、都内を抜けて江戸川の自宅に帰りついた。 帰りは行きに比べるとずいぶん余裕も有り、あまり苦しい思いを感じなかった。 本格的な自転車乗りから見れば何という事も無い旅だけど、自分にとってはちょっとした冒険だった。 終わってからの充実感は、バイクの旅とはまた違ったものだったし、自分の体力にも自信を与えてくれる 旅だった。 追記 2005年3月17日、新しい自転車を購入した。 ジャイアントのグレートジャーニー、日本一周チャリダーの定番自転車だ。 とりあえずは通勤用だが、自分の性格から必ず自転車で旅をするのは明らかだ。 いつか同じ行程を辿った時にどんな感想を抱くのだろう? 年齢による体力の衰え。 タイヤ選択を含めた道具の進歩。 経験が有る事による心理的変化。 興味深いし、そういう意味でもこの旅行は自転車旅の原点と呼べるものになりそうだ。 残念なのは、アクアラインの開通により川崎・木更津間のフェリーが廃止になってしまい 厳密にこのコースを追体験する事ができないことだ。 |